5-D Dr. Christian Coachman
講習会&ハンズオンコースを受講して
~ はじめに ~
FacebookやTwitterをはじめとするSNS(Social Network Service)は、社会そのものを一変しました。世界との距離を瞬時に縮めてくれたと言っても過言ではありません。
自分がFacebookを始めて間もないころ、ニュースフィールドのある画像に目が留まり、迷いなくリンクをシェアしました。それは、Dr. Christian CoachmanのDSD(Digital Smile Design)とうものでした。デジタル写真の美しさ、写真の規格化、プレゼンテーションの質の高さ、どれにおいても注視すべきものがあったのです。そんなある日、Dr. Christian Coachmanのハンズオンコースが5-D Japan 主催で行われると聞き胸が躍りました。
そして、去る2012年11月27・28日、東京・白鳳本社10Fセミナー室にて開催されました。初日講演会、二日目ハンズオンコースとして行われたその内容を網羅的にご報告させていただきたいと思います。
その1 DSD(Digital Smile Design)
初日の講演は、多くの美しい臨床例を呈示しながら、DSD(Digital Smile Design)を日常臨床でどのように用いているかの解説から始まりました。そのシステムは、決して複雑なものでなく、Mac PCのアプリケーション・ソフトであるKeynoteを駆使したものでした。そのKeynoteに撮影した写真を取り込み、上顎6前歯の歯冠サイズ・位置・歯軸およびバランスの評価、口唇や顔貌とのバランスの評価などを行っていきます。
後の受講生からの質問に対するDr. Christian Coachmanの回答で解ったことなのですが、DSDはあくまでも総義歯などで行う前歯の人工歯配列をデジタル画面上で行うに過ぎず、画一的なルールなどは存在せず、あくまでも既存のルールを参考にしながら応用するツールなのだと表現されました。
しかしながら、そこには過去にはない明確な技術が存在することを自分は即解しました。
確かに総義歯であれば、ある程度の自由度をもって歯の位置を設定し、実際に目で見ながら前歯のポジションを評価するタイミングは必ずあります。しかし、天然歯が散在する場合においては、主に診断用ワックスアップを口腔単位で行い顔貌は顔貌写真で評価するという別々の手段を統合しながら行うしかない という側面がありました。つまり、純然たる総合的な術前診断を簡易的にする術はなかったのです。咬合再構成のすべての起始点がインサイザルエッジ・ポジションの決定であるにもかかわらずです。(もちろん複雑なシステムは存在していましたが、煩雑で専門性が高すぎました。)
これは、患者の満足度が最も影響する審美のディテールが、歯科医師と技工士の経験と感覚に依存しすぎること、術前評価や診断が曖昧なまま治療が開始されているという現実を明確にしました。
つまり、このDSD (Digital Smile Design)は、審美修復や咬合再構成症例などの総合診断には欠かせないツールである可能性が高いのです。
その2 Digital Dental Photography
DSD(Digital Smile Design)の解説が進む中で、多くの受講生が感じていたことが確かに存在していました。それは、どのようなデジタルカメラを用いてどのような規格写真を撮っているのだろうという疑問でした。安定した写真精度、つまり、方向・角度・色などは診断や評価に大きな影響を与えうると感じるからです。
これを感じ取ったDr. Christian Coachmanは、2時間ほどを割いてこの疑問に答えてくれました。
デジタルカメラおよびフラッシュ・システムの設定を解説、詳細はFBのDigital Dental Photographのアルバムを参考にしてほしいという程度にとどめられました。それ以上は好みもありますし、こだわりもそれぞれです。そして、器材も安価なものばかりでもありませんので、個々の判断に委ねられました。適切な判断だと感じました。
そんな中、特記すべき留意事項を以下に列挙します。
*顔貌写真・口腔内写真を撮影する環境を一定にする(患者は立位を基本とする)
*患者自身に口角鉤を持ってもらう
*比較的広域で撮影し、トリミングを用いてリサイズする
*重要な事は、カメラのレベルでなく、バウンサー等を用いた光量の調整である
その3 Artificial Prosthesis Gingiva
口腔インプラントを用いた歯科治療が急増し、インプラントという言葉そのものにある程度の社会的市民権が得られたようにも見受けられます。一方、術後トラブルも急増し、より複雑な術後トラブルの再治療等も散見されるようになりました。
インプラント補綴術前処置である骨造成等の外科処置の限界も、術者の技術や経験に因らない現実もあります(患者の全身的健康状態や心理的背景、経済状況など)。
その中で、失われた歯周組織を補綴的に再建するインプラント補綴の講義およびシュミレーション模型を用いたハンズオンが二日間にわたり開催されました。
講演では、多くの臨床例が提示され、Artificial Prosthesis Gingiva がどのような背景から用いられるようになりどのように進化してきたのかという歴史も示していただきました。
Artificial Prosthesis Gingivaにおいて、注視すべきことは審美性と清掃性になります。歯やインプラントとは違い、形態そのものに変化を生じやすい歯周組織に呼応し対応する必要性から、口腔内直接法を完成させたのはある意味で必然であったのかもしれません。
その完成されたArtificial Prosthesis Gingivaは、まず歯肉との境界部がほとんど解りません。溶け込んでしまうようなフィニッシングラインの設定とデザイン、形態と色調の調和が完璧なのです。その美しさから、これまで外科的再介入で苦しんできた患者の喜びは想像に難しくありませんでした。
清掃性についても、術者可撤式(スクリューリテイニング)であることは然ることながら、患者自身がフロスを用いて行えるような配慮もされていました。隣在歯との接触部位においてはフロスが抵抗をもって貫通するのがひとつの指標ということでした。
次いで、構造的課題、つまりマテリアルセレクションやフレームワークデザインについても、多くの経験から得られた解決策・破折した場合の再介入方法等も提示されました。
そして、この術式が複雑な歯周組織欠損を伴う症例における部分欠損審美インプラント治療の選択肢のひとつになりうることを強調されました。場合によっては外科術式が変わる(頬舌的にフラットな顎堤を形成する)ため、術前からトップダウンで行わなくてはならないことも示されました。歯周組織再建とは全くコンセプトや方向性が違うのです。
臨床家である我々が、高い術後安定性と治療再介入の必然性を同時に理解していれば、Artificial Prosthesis Gingivaが、インプラント治療の選択肢のひとつとして欠かせない術式であることを即座に理解できるような講義および実習内容であったと言えるでしょう。
~ 総 括 ~
今回の講習会およびハンズオンで、Dr. Christian Coachmanがもっとも強調されていたキーワードは”情報の共有化”でした。専門医同志・セラミスト(DT)・デンタルスタッフはもとより、患者との視覚的情報共有がこれからの臨床には欠かせないものだという事を強調します。
患者をクライアントとして捉え、プレゼンテーションを提示することでスムーズに治療に移行できるのです。
そして、”収益性の高いプロトコール”は、エラーや調整を減らし、貴重な時間を創りだします。その時間は余裕を生み、患者との信頼関係をよりよいものにしていくことになるでしょう。
そして、患者の状況に応じた柔軟な対応(臨床応用力)を我々が備えることで、信頼は確固たるものになるはずです。口腔インプラント治療においては、Artificial Prosthesis Gingivaがその代表例と言えるでしょう。
“情報”とは決して一方的なものでなく、お互いがともに成長し繁栄していくために”共有”すべきものであり、これからもその”情報”を”共有”できるような関係を構築できることを願っていると締め括られました。
~ 終わりに ~
今回行われたDr. Christian Coachmanの講演会およびハンズオンコースは、すべての参加者にとってとても有意義なものであったと感じています。多岐にわたる講義や実習が、それぞれに感受性の高い受講生に対し、柔軟に角度を変えて伝わっていたからです。
そして、個人的ではありますが、Dr. Christian Coachmanの品格ある臨床への情熱を肌で感じとることができたことは、臨床家としてのRoadmapが明確になったといっても過言ではありません。
最後になりますが、このような貴重な機会を与えてくださった、Dr. Christian Coachman、5-D Japan ファウンダーの先生方、関係者の方々に厚くお礼を申し上げたいと思います。
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