さる平成24年3月11日第3回5-D Japan総会がシェーンバッハサボーにておよそ200名の参加を得て盛大に開催されたので、報告させていただきます。
ファウンダーの石川知弘先生が挨拶に立たれた後、前年の同じ日に起きた東日本大震災の犠牲者に参加者全員で黙祷を捧げ、ご冥福をお祈りした。
矢原憲一先生(石川県開業)は、「機能と審美を考慮した上顎前歯部インプランと補綴のマネージメント」で、素晴らしい治療結果を得た2症例を通して、上顎前歯部インプラント治療の成功は、審美的側面のみで評価されるべきではなく、機能的側面と治療結果の永続性にも目を向けるべきである。それらを達成するために、多数配慮すべき項目から、インプラントに置換されるに至った歯牙の喪失の原因を十分に考察することと、下顎の前歯部とのカップリングを改善することの重要性についてフォーカスを絞り、発表された。
石川亮(兵庫県開業)は、「広汎型歯周炎患者に対する再生療法と補綴治療のコンビネーション」で、再生療法の結果次第で補綴設計が変化するため、従来の歯周補綴よりもさらに慎重な再評価を経て、最終的な補綴設計を決定することが求められるとの私見を述べさせていただいた。(座長;石川知弘先生、北島一先生)
松島正和先生(東京都開業)は「顎関節の病態と顎機能に調和した補綴物の製作」として、顎関節症の病型分類から治療時に問題を引き起こさない補綴物製作のポイントを解説された。提示された豊富な動画は、顎運動を理解するためにも、臨床で診断するためにも非常に有用だと感じた。咬合器のセッティングから、補綴物を口腔内で調整するまでの一連の流れは、参加者にとってブラックボックスを解き明かす一助になったと思う。
米澤大地先生(兵庫県開業)の「下顎位を考慮した前歯インプラント治療計画」では、自身の”SAC分類の咬合版”に則り、前歯部インプラント修復を咬合の面からSimple/Advanced/Complexにクラス分けして診断することの重要性を説いた。矯正、インプラント、咬合、審美の各分野を見事にこなす、”ひとりMulti disciplinary approach”は氏の真骨頂だと思わせる発表だった。(座長;船登彰芳先生、殿塚量平先生)
第1部 マイクロスコープ治療を理解する
まず、南昌宏先生が登壇され、Micro dentistryの概念を総論的に話された。ルーペによる視野拡大も含めてMicro dentistryと考えており、まず始めに導入し易いのは観察すると使い方である。視覚情報が増えることによるメリットが診断に役立つこと、そして自身の研究と過去の論文を引用しながら、支台歯形成など補綴分野における視野拡大のメリットについて詳述された。 つぎに鈴木真名先生が登壇され、Micro dentistryの基礎の部分を、歯周初期治療における衛生士業務を通してお話しされた。衛生士業務に於いても、医師と同様に顕微鏡の使用が有効であることを臨床例により示された後、顕微鏡のポジショニングについてミラーテクニックや、患者の頭位とともに部位別に動画も交えて詳述された。私個人としては、セッションの冒頭に提示された素晴らしい歯間乳頭再建術の動画を見ながら「スローに動かして、一本のラインを引くことこそが技術である」と述べられていた事が印象に残った。
第2部 マイクロスコープ治療のペリオ、インプラント治療への応用
アドバンスの講演として鈴木先生は、インプラント周囲の歯肉退縮の分類と解決法について講演された。歯間乳頭の高さを得るためには、まず歯肉の厚みが必要であるということと、結合組織移植が修復と再生のコンビネーションによって治癒するのではないか、という考えを示された。鈴木先生の分類によっても、撤去も考慮すべきとされるような症例であっても、患者の希望により粘り強く、理詰めで軟組織の再建が計られていた。まさに世界的な第一人者である鈴木先生だからこそ到達出来る領域の症例だと感じた聴衆は、私だけでは無かっただろう。
南先生によるアドバンスの講演は、歯周外科治療に於ける一次閉鎖を達成するためのテクニカルポイントの解説で始まった。一次治癒達成に必要な縫合糸の太さと、縫合のテンションについての論文や、根面被覆時にマイクロサージェリーの使用がマクロに比べ、血管の新生と再構築に有効とする論文も示された。次に様々な材料による根面被覆が示された。とくに小帯切除と根面被覆の複合手術における動画とシェーマは、大変興味深いものだった。マクロの視野では決して達成出来ない事は勿論、術式自体が独創的だった。最後に一次治癒を達成出来るか否かにより、治療結果が左右される再生療法の症例が示された。「アドバンスの症例を手掛けるためには、実は基本を忠実に守ることが大切である。」というのは鈴木、南両先生の共通した意見だった。
最後に福西一浩先生から挨拶があり、盛況のうちに閉会した。参加された先生には実に有意義な一日になったようだった。次回2013年3月は、月星先生と福西先生の討論会の予定である。
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